2014年5月12日

[2014年5月12日] 第9回 Dhobi Ghat

第9回 インド映画研究会
  • 日時: 2014年5月12日(月)16:00~19:00
  • 会場: 京都大学 総合研究2号館4階 401教室
  • 報告者: 押川文子(京都大学地域研究統合情報センター)
  • 題材: Dhobi Ghat(2010年、95分)

※ 映画の概要については、以下を参照

[議論の概要]

 本作は、ムンバイを舞台として、4人の登場人物が織りなす複数の物語を描いた社会派映画。サバティカルでムンバイに来たニューヨークの銀行員Shai(Monica Dogra)、パーティーでShaiと出会う画家Arun(Aamir Khan)、Arunの家に出入りするドービーでShaiの取材対象となるMunna(Prateik)、Arunの新居に残されていた動画に登場する前住人Yasmin(Kriti Malhotra)の間で、ShaiとArun、MunnaとShai、ArunとYasminという3つの関係が、都市ムンバイと静かな音楽を背景に展開する。
 報告者が指摘したのは、第1に、舞台となっている都市ムンバイがいわば第5の主人公として魅力的に描かれていることであった。都市には多様な人々が一定の空間に共存しているが、農村と比べて人々の関係が弱くなった様子が、「工学的」(人工的)な登場人物設定の上で描かれている。この映画では、モザイクのような現代インドの都市において、不平等で関係の作れない世界という感覚が共有されており、現状の告発でも改革を求めるものにもなっていないという。
 第2に、ArunやShaiの視点は、おそらく監督Kiran RaoやAamir Khanの視点であり、この研究会に集まっているインド通の外国人やNRIの視点でもあるが、そうした視点から共感・実感できる細部描写が指摘された。とりわけ非対称な社会的関係に関わる描写で見られ、その意味ではMunnaやYasminの感情・感覚描写は型にはまっているという。
 第3に、俳優や撮影地、カメラワークの成功が論じられた。Shaiを演じたDograやYasminを演じたMalhotraという素人、とくに後者の起用は成功であったという。しかしドービーMunnaを演じた俳優Prateil(Smita Patilの遺児)は、「格好良すぎる」ためにこの役を演じるには無理があったという。また、ムンバイでのロケの多用は成功していると評された。
 その後の出席者を交えた議論では、ムンバイを象徴する雨のシーンが多用されていることや、本研究会でパールシーの視点で描かれる映画(本作ではShaiがパールシー)が多く取り上げられていることなどが指摘された。パールシーの視点は外国人に通じる観点で表象されることが多いため、そうした映画が外国人である我々の共感を得やすいのではないかと論じられた。

 また、本映画に関連するテーマを描く書籍として、報告者により以下が紹介された。

Krishna Baldev Vaid, translated by Sgaree Sengupta, The Diary of a Maidservant, Oxford University Press, 2007.

(文責:溜 和敏)

(2014年3月17日作成、5月21日更新)